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東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)177号 判決

原告

オーストラリア国

右代表者

連邦供給省長官

エー・エス・クーリイ

右訴訟代理人

中吉章一郎

外一名

被告

特許庁長官

斎藤英雄

右指定代理人

友松英爾

外一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を九〇日とする。

事実《省略》

理由

一本件の特許庁における手続の経緯、本願発明の特許請求の範囲および審決理由の要点が原告主張のとおりであること、引用例が本願出願前国内に頒布された刊行物であり、引用例に審決認定の記載があることは、当事者間に争いがない。

二ところで、本願発明の要旨、引用発明の要旨、目的および作用効果が原告主張のとおりであること、両発明がいずれも原告主張のイオン電導の原理を応用するものであることは、当事者間に争いがないところ、原告は、両発明はこの原理を具体化する技術手段が全く相違し、目的、作用効果も異なるから、本願発明は引用発明に基づき容易に発明できたものではない旨主張する。しかし、審決は、前記の原理が引用例によつて公知であつたところ、本願発明が「特定の応用分野に限定されない極めて概括的かつ原理的な方法である」ため、前記の原理とほぼ同じ程度に抽象的な原理であり、前記の原理に基いて容易に発明できたものである、という趣旨を説示しているのであつて、本願発明が引用発明に基づき容易に発明できたものである旨を説示しているのではないことは、前叙の当事者間に争いがない審決理由の要点に照らし明白であるから、原告の主張は主張自体失当である。

三そこで、次に本願発明が前記の原理に基づいて容易に発明できたものであるかどうかについて判断する。この原理が本願出願前公知であつたことは当事者間に争いがないところ、原告は、本願発明は、この原理を具体化するためにその主張の(1)および(2)の技術手段を使用する点において進歩性を有する、と主張する。しかし、微粒子物質の凝集沈澱物を得る目的でこの原理を応用するに当つては、分散質である第一および第二の微粒子が反対の電荷を有するものでなければならないこと、それが電荷を有するためには、いずれも分散媒に不溶性のものでなければならないこと、第一および第二の微粒子が合体するまで電荷を失わないためには、分散媒が電気的絶縁性を有するものでなければならないことがいずれも本願出願前当業者にとつて明白であつたことは、原告の明らかに争わないところであるから、自白したものとみなす。そして、本願発明が分散媒として使用する電気的絶縁性を有する有機液体が出願前周知のものであることは原告の自認するところであるから、原告主張の(1)および(2)の技術手段を使用することは当業者にとつて容易であり、本願発明は前記の原理に基づき当業者の容易に発明することができたものであると認めるのが相当である。そうだとすると、本願発明は旧特許法第一条の特許要件を具備しないことが明らかであるから、審決には原告主張の違法はない。

四よつて、原告の請求は失当であるから棄却し、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第一五八条第二項を適用して主文のとおり判決する。

(古関敏正 滝川叡一 宇野栄一郎)

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